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20年寝かせの滅菌ガーゼ

子供

先日(7月に雨が続いた頃)、雨がつらくてタクシーに乗りそうになったけど、タクシー代にちょっと足したら消防車のレゴが買えるじゃないか!と己を叱咤し歩きました、ごきげんよう。

倉橋由美子の残酷童話が楽しくて、倉橋気分にひたってそれっぽい文体で書いたある夜の日記です。


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ある夏の食後のことです。うっかり片づけ忘れたiPadを見つけて没頭してしまった子供たちを引き剥がす餌に、お出かけから帰ってくるママと出会ったら楽しいだろうと目論んで、パパは「夜のお散歩に行こう!」と、声をかけました。一瞬でiPadを閉じたノリノリの子供たちと外へ出ました。
パパは、以前お祭りの出店で買ったキラキラ発光する電飾が埋め込まれたシリコンのような物でできた指輪を二歳の息子の指につけました。五歳の姉には、マグライトを持たせました。いずれも、夜道でその存在を目立たせるためです。
お姉ちゃんがスタスタと行ってしまうのを時々制しながら、弟とパパは手をつないで歩きました。
しばらくすると、タイミングよく道端でママを発見して子供たちは大喜びです。どんどん楽しくなってきた弟は、ママの手を振り切り走り始めました。走ったりママの所へ戻ったりを繰り返しはじめてまだ100メートルも進んでいなかったかもしれません、一つ角を曲がるとアスファルトの状態の悪い歩道になり地面は、ボコボコしていました。
そこで、遂に弟は転んでしまいました。手をつきましたが走ったせいで勢いが余ったのか、頭も地面にぶつけてしまいました。手を支点としたシーソーのように。
 
「ゴチッ」
   .......。(ああ、この音はマズい。パパはすぐにそう感じました。ママも同じだったことでしょう。)
一呼吸、間を空けてしゃがんだまま大泣きする坊やをパパは抱き上げました。子をもつと分かりますが、怪我などで泣く時の本気の声は独特で、親は一瞬で危機を感じ取ることができます。
「痛かったね、よしよし」となだめながら、パパは、おでこの皮膚がぱっくりと割れている可能性が高いだろうと予想しました。けれども、夜道だったのでよくわかりません。
「これは、やばそうだからライトで照らしてみて。」
お姉ちゃんに持たせていたマグライトでママに照らしてもらうと、やはり坊やの額からは血がしたたり落ちていました。プロレスラーのように。ママが今日まだ使っていないハンドタオルがあるというのでそれをパパの顔と坊やの顔でサンドイッチする形で傷を抑えながら抱っこでお家に帰りました。
 
200メートルも歩いていないと思われますが、お家へ着くと、パパも坊やも血だらけになっていました。パパはあぐらをかいて坊やを抱きかかえ傷の確認や、処置をすることにしました。明るいところで見てみると、おでこは割れているのではなくて、3か所穴ぼこがあいたような傷でした。ボコボコしたアスファルトの凸部分が刺さったようでした。5歳のお姉ちゃんは、血をみて怖がることもなく、せっせと色々なお手伝いをしてくれました。後で聞くと、楽しかったといいます。語彙の少ない子供の表現ですからなんとも言えませんが、非常事態のあわただしい感じが「楽しい」という感覚に近かったのかもしれません。
止血をしながら、血をぬぐったり、髪の毛を少し切ったりしながら、パパはかばんのなかのポーチに、滅菌ガーゼが入っているはずだから探すようにママに頼みました。これは、パパが高校生くらいの時に購入して、長い年月をかけて携帯しつづけた最後の一枚でした。
 
パパは用心男なのでした。また、10代の頃はよく色々な友人たちの家にお泊まりすることが多かったので、いつでも泊まれるように歯ブラシや目薬やリップクリームや、お腹の薬やデンタルフロスや、爪やすりに喉スプレーという具合にどんどん膨らんでいったのです。そのなかまのひとつが滅菌ガーゼでした。
そもそも高校生にして何故滅菌ガーゼなどという物を知ったのでしょうか。母親が持たせたのかもしれませんし、保健委員だったからかもしれません。
いずれにしても、滅多に使うものではありませんので、長い間眠っていたのです。もはや滅菌されているかどうかも怪しいですが、袋に入っているので大丈夫でしょう。
 
それから、引き出しを漁るとその滅菌ガーゼを貼り付けるための人体に貼ることを前提としたマスキングテープのような物 もやはり持っていたので、ぷっくりとコブのできた坊やのおでこに貼りました。
 
長い時間泣きじゃくった坊やは疲れて眠ってしまいました。
 
パパは念のため友人の医師に電話をして相談をしました。傷口に髪の毛が巻き込まれてしまったけれどどうなるのか、傷パワーパッドを使うべきか否か、こぶなどができた場合は大丈夫などというが頭部を打ったことに関してはどう思うか、などです。
始めは色々と細かく教えていた友人でしたが、怪我をしたのがお姉ちゃんではなくて弟の方だと知ると、「なんだ、傷の方なんてどうでもいいじゃないか、脳に怪我をしているかどうかのことだけ心配していればいいだろう。」と、仮に脳が出血していても、怪我をした直後には異常が出ないからしばらく様子を見ること、寝てしまったのならば、おかしないびきなどをかいていないか注意しておくことなどの注意点をパパに伝えました。
なるほど、外傷の扱いはそんなものかと納得したパパは、坊やの傷を水でしっかり洗えていないので傷パワーパッドで細菌までも一緒に封じ込めずに、通気性のよいガーゼのままにしておくことにしました。
 
パパは、後になって、坊やの指につけたぴかぴか光る指輪が原因で転んだ際にしっかりと手をつけなかったのではないかと反省しましたが、ママは、坊やがしっかりと手をつけていたけれども勢いが強くて転んだことを見ていたそうです。
 
坊やはまだ二歳児ですから、傷やガーゼをいじってしまうかと思われましたが、怪我の恐怖の記憶が強かったのか、傷がかさぶたになり、自然と剥がれてくるまでほとんど触ることはありませんでした。痛みもさることながら、血まみれになった自分の手やパパの姿も怖かったのかもしれません。
 
パパにとって、坊やを愛おしく思う気持ちが増した夏の思い出となりました。

学んだこと
血はくさい。たくさん浴びると傷の処置の際、臭気にむせて「オエッ」となるから注意。
(それでは外科手術の医者などどうするのだ)